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秀吉さんは茶人としてもよいセンスの持ち主だったようです。
古い茶会記には、ねこじゃらし、つまりエノコログサですか、そうしたふつうの草をさっと取ってきて花入れに生けたとあります。籐吉郎の頃の自然児の雰囲気もどこかにただよいます。
それにしても切腹を命じた自分のために後々の世までこうして供養してもらうとは。
利休さんの遺徳と、やはり秀吉さんのもってうまれた徳といいますか、この国の人々の徳といいますか、ほかの国にはあまりみられないような人情を思わずにはいられません。 |
数寄屋造りの門 |
待ち合いは文字どおり客が待つ処です。
茶会では、待合の様子によって本席への期待が生まれる大切な場所でもあります。音楽でいいますと序章でしょうか。
待合の床の間には、本席の掛け物をひきたてるものが好ましいと聞いています。この度はなんといいましても茶道の大本山である宗家の懸け釜ですから、それは緊張いたしました。
待ち合いの床の掛け物はまさにこの日の為のもの。歴史あるこの場所に当時のありさまが、絢爛豪華な豊国廟がよくわかる貴重なものでした。重文だったかと思います。
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さていよいよ本席です。二間続きの書院です。
床は秀吉公の手紙で、山里の文として知られている由。
文面は「 大もミ十本○○○候 山里のミコしに うへさせ可候 又そはつもなきところニ うえさせをき申候 十六日 ひてよし 」
祐筆ならもっと解りやすい書き方でしょうが解らないところに秀吉の筆跡が感じられます。この消息文の特色は自署のすぐ左横に「宗易」と漢字で力強く書かれているところで、秀吉がいかに利休を重んじていたかが、古文書には素人の私にも解るような気がしました。
もみの木を利休が秀吉に贈ったか秀吉が送ったのか、とにかくそのことを知らせているのではないでしょうか。
花は、水木と白椿の蕾が清楚にはいっていました。秀吉が利休に贈った竹花入れは根っこの極く太い竹を豪快に切ったもので、天下さまの自慢の笑声が聞こえてくるようでした。
主茶碗は今日庵十代宗匠の手造り。茶碗の味もさることながらひとしおという銘が付けられていて、主の心入れが偲ばれます。二碗は高麗の青井戸、茶碗内部に白い釉薬が流れて立浪の感じの清々しい茶碗でした。淡々斎という先代十四世の宗匠が命銘。桐陰席を建てた功労者です。三碗は当代十五世家元の手造り。きっぱりとした大らかな持ち味がある黒の茶碗でした。銘の望景は阿弥陀ヶ峰を望むにふさわしいですね。
茶杓ですが、筒は共筒でなく書かれたのは太閤殿、つまり秀吉と同じ職名、後世の関白ということです。歌銘で、常と叟という二文字を読み込んだ和歌が書かれており五代常叟宗匠にサービスされています。当時ではたいへんな事だったのでしょう。
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茶 会 記
待合 床 豊国廟参詣図 江戸時代
本席 床 豊公消息 易居士宛 大もミ十本
碌々斎箱書書付 卒啄斎箱書付
淡々斎外箱
花入 利休居士拝領 北野大茶の湯の砌
銘 大会
香合 淡々斎好 花筏 五ノ内 利斎
釜 市女笠透木釜 名越弥五郎作
炉縁 宗旦好 花筏
棚 淡々斎好 誰ガ袖 以作法隆寺古材
水指 染付 山水 獅子耳
薄茶器 時代菊桐棗
茶杓 常叟作 銘 松陰 太閤殿(鷹司公)筒書
玄々斎箱
茶碗 認得斎手造 赤楽 銘 ひとしお
替 青井戸 銘 立浪 淡々斎箱
替 鵬雲斎家元手造 黒 銘 望景
十代長左衛門
蓋置 五徳 浄元作
煙草盆 六瓢 鵬雲斎家元好
火入 織部
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ここは会員制になっていて、この度は特別のお招きで席入りすることができました。飛び入りで申し訳ないことですが、一席25人ほどの最後の席だったのではないかと思います。
アメリカをはじめヨーロッパやアジアからの留学生10数人とごいっしょでした。茶道を学びに来ている留学生で、なかには会計士だという人もいました。たいへん礼儀正しく、日本の伝統文化を学ぶ情熱のようなものを感じました。
本席は書院広間で今日庵若宗匠のお点前でした。思いがけないことでした。春風駘蕩といったお点前で、客をリラックスさせてくださる会話。外人客も正座して緊張のなかにもお茶を楽しんでいるように見えます。
これが日本古来のファミリーのすがただ、と私は思いました。若宗匠のお祖父さんが桐陰席を造られ、お父さんが秀吉さんの為に献茶をされ、孫である若宗匠が客に茶を振舞っておられます。
茶会を構成する道具の取り合わせは、先祖の方々の手造りの逸品を含め、美しく格調高く、調和を考えて配置されています。こうした芸術的感性は一朝にして出来るものでないことは申すまでもありません。
茶がおわると、渡り廊下をつたわって新築の点心席へ。点心は今流行の料亭風のものでなく、茶懐石の簡素なよさをもっている辻留のもの。宗家の指導を受けた料理人ならではの床しい味があります。
外人も紙で食器などを拭いて作法通りに膳のなかを整えています。膳が下げられると一同挨拶を交わし、相手をねぎらいます。点心席もおわり、それぞれ笑顔で退出しました。
後日きけばこの日は八席あったそうで、すべて若宗匠が点前をされたとか。水屋の方々と共にお疲れになられたことでしょう。本来のありようでしょうか。久々に閑雅な、しみじみとした茶会に、参じることができました。
合掌 わびすけ
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